日米の景気循環の比較 第11回 米国景気と非連動型の円高不況

 
1.前回のまとめ
 
日本の過去の景気後退から、米国の景気後退と非連動で、且つ、今後も発生する可能性のあるものを挙げると、以下の4つの景気後退となりました。
 

No.期間原因
81977年2月~1977年10月円高
101985年7月~1986年11月円高
111991年3月~1993年10月不動産バブル崩壊
121997年6月~1999年1月アジア危機、金融危機

 
今回は、これらの景気後退を調べて、先行指標を探っていこうと思います。
 
2. 1977年2月~1977年10月・・・米国景気と非連動型の円高不況(その1)
 
以下は、1971年から79年のドル円の為替の推移です。チャート集
1977年から1978年にかけて、大幅に円が切り上がっています。
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このように、この期間の景気後退は、為替が急速に円高に振れて、輸出企業の競争条件が悪化したことが原因だと考えられます。
 
しかし、複雑な構成要件を持つ為替の先行指標を見つけることは、難しいことから、このようなタイプの景気後退を予測することは出来ないと考えられます。
 
一方、株式の推移を見ると、このタイプの景気後退の特徴が分かります。
下のチャートは、同じ期間の日経平均株価の推移です。(各月の始値をプロットしたもの)・・・日経平均株価 1949年からの四本値
1977年から1978年は、為替が大きく円高に振れて、景気後退に陥っていたにも関わらず、株価は、ほぼ、横這いで、長期的には上昇傾向を続けていました。
 
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このように、株式、すなわち、企業の期待収益から見ると、このタイプの景気後退は、中立的であることが分かります。
 
これは、急速な円高で輸出企業の採算が悪化し、一時的に設備や人員に過剰を抱えていても、輸入企業のコスト減や円の購買力の増加による消費刺激効果などが相殺しているからです。
 
また、一時的な採算悪化に苦しむ製造業も、米国の景気が拡大している限り、現地生産の拡大や海外企業の買収によって、早期に利益を上げられると考えられます。
 
3. 1985年7月~1986年11月・・・米国景気と非連動型の円高不況(その2)
 
以下は、1980年代のドル円の為替の推移です。チャート集
1985年から1986年にかけて、大幅に円が切り上がっています。
 
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1977年から1978年と同様に、この期間の景気後退も、為替が急速に円高に振れて、輸出企業の競争条件が悪化したことが原因だと考えられます。
 
この期間の株価の推移を見ると、以下のように、1985年から1986年は、為替が大きく円高に振れて、景気後退に陥っていたにも関わらず、株価は、上昇基調を続けていました。
 
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1977年から1978年と同様に、企業の期待収益から見ると、このタイプの景気後退は、中立から刺激的と言えます。
 
また、1970年代よりも、1980年代の円高時の方が、企業の期待収益が高いのは、前回の円高で、製造拠点の海外移転が増えたことや、経済のサービス化が進んで、円高のメリットをより享受できるようになったものと考えられます。
 
4.まとめ
 
米国の景気に連動しない日本単独の円高不況は、為替の変動が主因の為、先行指標を見つけることは、難しいと考えられます。
 
しかし、このタイプの景気後退は、中長期の企業収益に対しては、中立かまたは刺激的と考えられます。
 
従って、株式投資の立場からは、米国景気と非連動型の円高不況は、予想する必要の無い景気後退と言えます。
 
次回は、残りの二つの景気後退(不動産バブル崩壊金融危機)について、検討してみることにします。