日米の景気循環の比較 第12回 住宅用不動産への資金流入と景気後退

1.前回のまとめ
 
前回の分析では、米国の景気後退と連動しない円高不況は、株式投資の観点からは、予測する必要が無いことが分かりました。
 
今回は、米国の景気後退と連動しない残りの2つの景気後退を分析して、先行指標を探っていこうと思います。
 
2. 1991年3月~1993年10月・・・不動産バブル崩壊
 
プラザ合意後の日本政府による内需拡大政策、さらに、ブラックマンデー後の米国を支援するための日銀の積極的な金融緩和策などによって生まれた資金が、不動産のバブルを形成し、それが破裂したことによって、この時期、日本は深刻な景気後退に陥りました。
 
この時期の住宅用不動産への資金流入の状況を見ると、下のようになります。
 
以下のチャートは、1984年から1995年の国内銀行の個人向け新規住宅資金貸付額の4四半期移動平均の推移です。(日銀の統計サイトから取得)
 
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このように、バブルによって、1985年から1989年の4年間に、住宅用不動産への資金流入が約4倍に拡大して、1989年の4Qにピークアウトした5四半期後に、景気後退に陥っています。
 
1989年4Qに住宅資金の新規貸付がピークアウトした原因は、この時期に、消費税が導入されたことによる、住宅に対する駆け込み需要とその反動減であると考えられます。
 
住宅用不動産への資金流入の状況は、このような種類の景気後退の先行指標として、有効であることが分かります。
 
3. 1997年6月~1999年1月・・・アジア危機、金融危機
 
アジア危機による外需の減退と消費税増税による内需の縮小が、この時期の日本の景気後退の原因と言われています。
外需の動向は取り敢えず考えずに、内需の動向を、やはり、国内の住宅用不動産への資金流入の状況から見てみます。
 
以下のチャートは、1984年から1995年の国内銀行の個人向け新規住宅資金貸付額の4四半期移動平均の推移です。(日銀の統計サイトから取得)
 
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このように、1994年から1996年の2年間に、住宅用不動産への資金流入が約2倍に拡大して、1996年の3Qにピークアウトした4四半期後に、景気後退に陥っています。
 
住宅資金の急速な流入とピークアウトの原因は、消費税が3%から5%に増税されたことによる、住宅に対する駆け込み需要と、その反動減であると考えられます。
 
前回のバブル崩壊と同様に、住宅用不動産への資金流入の状況は、景気後退の先行指標として、有効であることが分かります。
 
4.長期的な検証
 
ここで、もう少し長期的に、住宅用不動産への資金流入の状況と景気後退の関係を検証して行こうと思います。
 
以下のチャートは、1974年から2012年の39年間の国内銀行の個人向け新規住宅資金貸付額の4四半期移動平均の推移です。(日銀の統計サイトから取得)
 
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 上のチャートを見ると、1991年の不動産バブル崩壊と1997年のアジア危機・金融危機以外にも、1980年の第二次石油危機と2008年の米住宅バブル崩壊後の不況でも、住宅用不動産への資金流入が直前にピークアウトしており、景気後退の先行指標として有効に機能していたことが分かります。
 
それに対して、1977年と1985年の二度の円高不況では、住宅用不動産への資金流入のピークアウトは見られません。これは、米国と非連動の円高不況では、内需の減退が大きくないという性質に一致していると言えます。
 
また、2000年のITバブル崩壊後の不況で、住宅用不動産への資金流入のピークアウトが見られなかったのは、この不況が、電子部品や通信機器の過剰在庫によって引き起こされた製造業主体のものであったため、やはり、内需の大きな減退は無かったことが原因と考えられます。
 
5.米国との比較
 
以下のチャートは、上と同じ期間の米国の住宅着工件数の推移です。
 
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日本と同様に、1980年の第二次石油危機後と2008年の米住宅バブル崩壊後の不況の直前に、住宅着工件数のピークアウトが見られ、2001年のITバブル崩壊の際には、住宅着工件数の大きな落ち込みは見られませんでした。
 
注) 基軸通貨国である米国には、日本の円高不況に相当する景気後退はありません。
 
6.まとめ
 
日本でも、米国と同様に、住宅関連の指標が、景気後退の先行指標として、有効に機能する可能性が高い。
特に、消費税増税前後の駆け込み需要とその反動に起因する景気後退では、住宅用不動産への資金流入の状況を監視することによって、景気後退を予測することが可能であると考えられる。