検証システム 第26回 日次金利における逆イールドのノイズ除去方法


前回までに、90日移動平均金利から求めた逆イールドが、景気後退の先行指標、ならびに、株式の売却タイミングを知るための指標として、有効であることを確認しました。

今回は、経済メディアが主に取り上げる、日次の金利で発生する逆イールドについて、検証してみます。

1.日次金利の逆イールドにおけるノイズの発生率

1960年代以降、日次の金利での逆イールドは、19回発生しています。

この間の景気後退の発生回数は、8回ですので、残りの11回(=19-8)は、ノイズということになります。

従って、日次の金利で発生した逆イールドがノイズである確率は、57.9%(=11÷19×100%)ということになります。

このように、日次金利の逆イールド発生で、景気後退を予測しても、半分以上の確率で、予測が外れる訳で、逆イールドによる予測に批判的な意見は、この点に集中しています。

しかし、前回までに説明してきたように90日移動平均を取る事によって、ノイズは除去されます。
また、以下に述べるように、日次金利の逆イールドを1~2ヶ月間監視することによっても、ノイズの除去は可能です。

2.日次金利の逆イールドにおけるノイズの特徴

1960年代以降、日次の金利で検知された逆イールドの中から、ノイズだけを列挙すると以下のようになります。

期間FROM-TO → 通算日数
1966年 1月12日から1966年1月19日→  6日間
1968年12月19日から1969年2月 7日→ 30日間
1969年 4月11日から1969年4月23日→  8日間
1982年 2月 1日から1982年2月18日→  8日間
1982年 3月27日から1982年3月27日→  1日間
2000年 4月 7日から2000年4月10日→  2日間
2006年 1月17日から2006年1月23日→  3日間
2006年 2月22日から2006年3月 1日→  6日間
2007年 7月20日から2007年8月 9日→ 15日間
2007年 8月27日から2007年8月27日→  1日間

注)
1.ベトナム戦争の影響でノイズとなった1966年9月8日から1967年2月7日の逆イールドは除外しました。
2.2000年以前は、3ヶ月債の金利は、流通市場の既発債金利を適用、2000年以降は、変動利付き債の金利を適用しました。

上の通算日数を見て分かるように、大半のノイズの発生は、非常に短期間で終息し、逆イールド発生後、暦日で一ヶ月後まで継続している確率は、9.1%(=1÷11×100%)となります。

従って、日次の金利で逆イールドが発生した場合、一ヶ月間監視することによって、ノイズの90.9%を除去することが可能となります。

残りの9.1%の確率で発生する一ヶ月間以上、継続する長期的ノイズについても、以下のようにファンダメンタルズの条件を考慮することによって、除去が可能です。

3.ファンダメンタルズ要因

通常、米国経済は、個人による過剰な住宅投資、あるいは、企業による過剰な設備投資が契機となって、景気後退に陥ります。

例えば、今回の住宅バブル後の景気後退は、住宅投資の過剰が契機であり、前回のITバブルでは、通信機器などの企業の設備投資の過剰が契機となりました。

これらの過剰は、新築住宅販売の下降トレンド、ISM製造業業況指数の50未満のPMIとして表れます。

1960年代以降の景気後退において、日次の金利で逆イールドが出現した月で、新築住宅販売のトレンド、ISM製造業業況指数のPMIを列挙すると以下のとおりです。

1969年 6月 新築住宅販売:↓ ISM指数:55.5
1973年 6月 新築住宅販売:↓ ISM指数:65.0
1978年11月 新築住宅販売:↓ ISM指数:61.3
1980年10月 新築住宅販売:↓ ISM指数:55.5
1989年 5月 新築住宅販売:- ISM指数:47.3
1989年10月 新築住宅販売:↓ ISM指数:47.4
2000年 7月 新築住宅販売:↑ ISM指数:46.3
2006年 7月 新築住宅販売:↓ ISM指数:53.2

上のように、逆イールドが出現した年月において、新築住宅販売の下降トレンドあるいは、50未満のISM指数が観測されていて、ファンダメンタルズの悪化が、景気後退入りを示唆していました。

その一方で、通算日数が30日以上の長期ノイズが観測された1968年12月における新築住宅販売のトレンドは、上向きで、かつ、ISM指数は、56.1となっており、ファンダメンタルズは良好でした。

従って、通算日数が30日以上の長期ノイズは、ファンダメンタルズの評価で除去が可能と言えます。

4.まとめ

上記の分析結果をまとめると、日次の金利での逆イールドにおけるノイズの除去方法は、以下のとおりです。

(1)日次の金利で逆イールドを検知した場合、当該日から、一ヶ月間、監視を続ける。翌月の同日に、逆イールドが継続していなかった場合、ノイズと判断して監視を終了する。

(2)監視を開始して一ヶ月後の同日も逆イールドが続いていた場合は、逆イールドを検知した年月の新築住宅販売とISM製造業業況指数の発表を待って、以下のいずれかの条件が成立する場合は、ノイズでは無いと判断します。
・新築住宅販売のトレンドが下向き
・ISM製造業業況指数のPMIが50未満

(3)上記の条件がいずれも成立しない場合は、さらに、一ヶ月間、監視を続けて、(2)の判定を繰り返す。

注)ただし、戦争の発生など需要の強制的な増加が見込まれる場合は、逆イールドが検知されても、無条件にノイズとみまします。

5.日次金利の逆イールド判定の利点と注意点

日次金利の逆イールドは、移動平均金利の逆イールドよりも、平均で4.3ヶ月先行して検知されます。
上記の方法で一ヶ月間監視を続けて、さらに、統計の発表を一ヶ月待ったとしても、2.3ヶ月先行することになります。

このように、日次金利の逆イールドは、移動平均金利よりも、二ヶ月以上早く、景気後退を予測できるので、さまざま準備が早期に可能となるという利点があります。

しかし、移動平均金利の逆イールドでは、数学的な方法で客観的にノイズを除去していますが、日次金利の逆イールドでは、ファンダメンタルズ要素を加味して、ノイズを除去します。

本来、金利という市場データには、ファンダメンタルズ要素が既に織り込まれているので、これを、二重で評価するのは、あまり好ましいものではありません。

従って、日次金利の逆イールドによる予測は、補完的なものとして捉えるべきで、正式な景気後退の予測は、移動平均金利の逆イールドで再度、行うべきだと考えています。