前回は、1980年のFF金利の推移と景気循環、物価の関係から、当時の金融政策の動向を振り返りました。
今回は、FF金利以外の指標として、通貨供給量の推移から、当時の金融政策の動向ならびにインフレと通貨供給量量の関係を探ろうと思います。
1.通貨供給量のデータ取得
データは、代表的な通貨供給量であるM2を使います。
セントルイス連銀のサイトから、季節調整済みのM2をExcel形式で、ダウンロードしてきます。
M2SL
このデータは、1951年1月から始まっています。
2.比較データの作成
比較データの作成は以下の手順で行います。
(1)ダウンロードしたExcelデータを、Accessのテーブルにインポートする。
(2)Accessで新規のクエリを作成して、以下のテーブルをリンクする。
・M2
・CPI
・PPI
・FF金利
(3)上記のクエリを開いて、Excel形式でエクスポートする。
(4)このExcelに、M2の前月比、M2、CPI、PPIの前年同月比を計算する式を追加する。
作成済みのExcelデータは、SkyDriveにアップしてあります。
M2_CPI_PPI_FFrate
項目は、左から順に以下のとおりです。
・年月
・M2
・CPI
・PPI
・FF金利
・M2前月比
・CPI前年同月比
・PPI前年同月比
・M2前年同月比
3.M2の前年同月比
先ず、M2の前年同月比に注目して、比較データを見ると、10%以上が1年以上継続している期間が、3箇所、見つかります。
この、3箇所について、分析してみます。
(1)1971年3月~1973年7月・・・通算:2年5ヶ月
ここでは、M2の前年同月比が10%以上の期間が2年5ヶ月続いた後、さらに、8ヵ月後の1974年2月から、CPIが10%を超えて、激しいインフレとなっています。
CPIが10%を超えていた期間は、1974年2月から1975年4月までの、1年3ヶ月間でした。
(2)1975年7月~1977年12月・・・通算:2年6ヶ月
ここでも、M2の前年同月比が10%以上の期間が2年6ヶ月続いた後、さらに、1年3ヵ月後の1979年3月から、CPIが10%を超えて、激しいインフレとなっています。
CPIが10%を超えていた期間は、1979年1月から1981年6月までの、1年6ヶ月間でした。
(3)1983年1月~1983年12月・・・通算:1年
ここでは、前の二回と異なり、CPIが10%を超えていた期間が終了した後も、CPIが10%を超えるような激しいインフレは、観測されませんでした。
以上の結果から、次のような仮説が立てられると思います。
・コンドラチェフ循環の前方テール(60年周期の長期金利のピークの前側)に、M2の前年同月比が10%の期間が1年以上続くと、その後、1年程度経過して、10%を超えるCPIの激しいインフレが発生する。
・コンドラチェフ循環の後方テール(60年周期の長期金利のピークの後側)に、M2の前年同月比が10%の期間が1年以上続いても、その後、10%を超えるCPIの激しいインフレは発生しない。
4.M2の前月比
次に、1980年前後のM2の前月比を見て、気付くのは、1980年4月の0.16%という数字の低さです。
年月→FF金利→M2前月比
1980/1/1 13.82 0.61%
1980/2/1 14.13 0.80%
1980/3/1 17.19 0.35%
1980/4/1 17.61 0.16% ←M2前月比のボトム
1980/5/1 10.98 0.67%
1980/6/1 9.47 1.12%
1980/7/1 9.03 1.07%
1980/8/1 9.61 1.04%
1980/9/1 10.87 0.80% ←金価格のピーク
1980/10/1 12.81 0.69%
1980/11/1 15.85 0.69% ←CRB指数のピーク
1980/12/1 18.90 0.25%
1981/1/1 19.08 0.44%
1981/2/1 15.93 0.73%
1981/3/1 14.70 1.11%
1981/4/1 15.72 1.38%
1981/5/1 18.52 0.30%
1981/6/1 19.10 0.37% ←FF金利のピーク
1981/7/1 19.04 0.69%
1981/8/1 17.82 0.74%
1981/9/1 15.87 0.69%
1981/10/1 15.08 0.93%
1981/11/1 13.31 0.83%
1981/12/1 12.37 1.12%
この期間でM2前月比が、0.1%台を付けたのは、1980年4月だけで、この月が突出して低くなっています。
1980年4月のFF金利を見ると、17.61%で、1981年6月に付けた最高値の19.10%よりは低いのですが、M2の前月比から判断すると、ここが、FRBによる金融引締めのピークだったのではないかと思われます。
実際に、金価格は、その5ヶ月後の1980年9月にピークアウトしており、FRBの金融引締めの効果は現れてきています。
以上の点から、次のような仮説も考えられます。
・M2(季節調整済み)前月比のボトムを確認して、数ヵ月後に、商品価格がピークを付ける。
今回立てた複数の仮説は、次回以降に再検証してみたいと思います。
次回は、ここ数回における、FF金利および通貨供給量とCPI、PPIのインフレの関係を、一旦、整理してみようと思っています。