商品循環 第46回 1980年におけるFF金利とCPI,PPIの関係

前回、フェデラルファンドレート(以下、FF金利)と、CPI、PPIをリンクしたデータを作成しました。
今回は、このデータを使って、1980年の商品循環のピークにおけるFF金利の推移と、CPI、PPIへの影響を調べることにします。

データは、以下からダウンロードが可能です。
PPI_CPI_FFrate

1.FF金利とCPI (1979年)

1970年代、米国では、ベトナム戦争による財政支出の増大で、インフレが常態化し、1979年3月には、CPIが10%を超える激しいインフレとなりました。

1979年8月にFRB議長に就任したポール・ボルカーは、インフレ退治を最大目標に強力な金融引締め政策を実行し、1979年末には、FF金利を13%台まで引き上げました。

年月→FF金利→CPI前年同月比
1979/1/1    10.07     9.28%
1979/2/1    10.06     9.86%
1979/3/1    10.09     10.09% ←CPIが10%を超える
1979/4/1    10.01     10.49%
1979/5/1    10.24     10.85%
1979/6/1    10.29     10.89%
1979/7/1    10.47     11.26%
1979/8/1    10.94     11.82% ←ボルカーがFRB議長に就任
1979/9/1    11.43     12.18%
1979/10/1    13.77     12.07%
1979/11/1    13.18     12.61%
1979/12/1    13.78     13.29% ←FF金利を13%台後半まで引き上げる

2.FF金利とCPI (1980年)

1980年に入っても、物価上昇は続いたため、FRBは、1980年3月には、FF金利を17%台まで引き上げました。

その結果、1980年6月には、CPIの伸び率が下がり始め、FF金利も、一旦、9%台まで引き下げられます。

しかし、依然として、CPIが10%を超えるインフレが続いていたために、FRBは、金融引締めが不十分と見て、FF金利の引き上げを断行して、1980年末には、FF金利が18%台後半に達しました。

年月→FF金利→CPI前年同月比
1980/1/1    13.82     13.91%
1980/2/1    14.13     14.18%
1980/3/1    17.19     14.76%
1980/4/1    17.61     14.73% ←FF金利を最大17.6%まで引き上げる
1980/5/1    10.98     14.41% ←CPIの伸び率が下がり始める
1980/6/1    9.47     14.38% ←FF金利を9%台に引き下げる
1980/7/1    9.03     13.13%
1980/8/1    9.61     12.87%
1980/9/1    10.87     12.60%
1980/10/1    12.81     12.77%
1980/11/1    15.85     12.65%
1980/12/1    18.90     12.52% ←FF金利を18%台まで引き上げる

3.FF金利とCPI (1981年)

1981年に入っても、FRBによる金融引締めは続けられ、6月には、FF金利が過去最大の19.1%まで引き上げられます。

この強力な金融引締めによって、CPIは、年末になって、やっと、10%を下回りはじめましたが、FRBは、引き締めのスタンスを継続し、12月のFF金利も、12%台を維持しました。

年月→FF金利→CPI前年同月比
1981/1/1    19.08     11.83%
1981/2/1    15.93     11.41%
1981/3/1    14.70     10.49%
1981/4/1    15.72     10.00%
1981/5/1    18.52     9.78%
1981/6/1    19.10     9.55% ←FF金利が過去最大の19.1%まで引き上げられる。
1981/7/1    19.04     10.76%
1981/8/1    17.82     10.80%
1981/9/1    15.87     10.95%
1981/10/1    15.08     10.14%
1981/11/1    13.31     9.59% ←CPIが10%を下回り始める。
1981/12/1    12.37     8.92% ←年末までFF金利の12%台を維持

4.FF金利とCPI (1982年)

FRBは、金融引締めを開始してから3年目の1982年に入っても、引き締めスタンスを維持し、9月まで、FF金利を10%台に据え置きました。

インフレは、やっと、沈静化の傾向を見せ、8月に入ると、CPIは、5%台まで下がってきました。

この時点で、FRBは、金融引き締め政策を終了し、10月には、FF金利を9%台に下げて、緩和を実施しました。

年月→FF金利→CPI前年同月比
1982/1/1    13.22     8.39%
1982/2/1    14.78     7.62%
1982/3/1    14.68     6.78%
1982/4/1    14.94     6.51%
1982/5/1    14.45     6.68%
1982/6/1    14.15     7.06%
1982/7/1    12.59     6.44%
1982/8/1    10.12     5.85% ←CPIが5%台まで下落
1982/9/1    10.31     5.04%
1982/10/1    9.71     5.14% ←金融緩和に政策転換し、FF金利を9%台に引き下げる。
1982/11/1    9.20     4.59%
1982/12/1    8.95     3.83%

このように、1980年のような激しいインフレでは、政策金利(FF金利)を大胆に引き上げても、CPIが思うように下がらず、深刻な景気後退にも関わらず、何度も、金融当局は、FF金利の再引き上げに追い込まれます。

この期間中のFF金利の推移を見ると、FRBは、3回の金利引上げを行ったことが分かります。
▲1980年4月・・・17.61% ←FF金利の1回目のピーク
▼1980年7月・・・9.03%
▲1981年1月・・・19.08% ←FF金利の2回目のピーク
▼1981年3月・・・14.70%
▲1981年6月・・・19.10% ←FF金利の3回目のピーク(過去最大値)

5.FF金利とPPI (1980年)

次に、FF金利と商品価格を表すPPIとの関係を見てみます。

年月→FF金利→PPI前年同月比
1980/1/1    13.82     15.45%
1980/2/1    14.13     16.02%
1980/3/1    17.19     15.44% ←PPIのピーク
1980/4/1    17.61     14.17% ←FF金利の1回目のピーク
1980/5/1    10.98     13.94%
1980/6/1    9.47     13.72%
1980/7/1    9.03     14.02%
1980/8/1    9.61     14.95%
1980/9/1    10.87     13.35% ←金価格のピーク
1980/10/1    12.81     13.03%
1980/11/1    15.85     12.83% ←CRB指数のピーク
1980/12/1    18.90     12.47%

上のように、FF金利の1回目の引き上げ時点で、既に、PPIはピークアウトし、実際の商品価格も、1980年の年末には、ピークアウトして、下落に転じています。

1981年も引き続きPPIは下落し、7月には、10%を切っています。

このように、PPI(商品価格)のインフレは、政策金利(FF金利)の引き上げによって、CPIよりも容易に、沈静化に向かう傾向があると言えます。

6.長期金利との関係

ここで、PPIならびにFF金利長期金利との関係を簡単に考察してみまます。

1980年3月・・・PPIのピークアウト(商品循環のピーク)
1981年6月・・・FF金利が過去最大値の9.10%に到達
1981年9月・・・米国の長期金利が、過去最大値の15.84%を付ける。(債券循環のボトム)

このように、FF金利長期金利のピークは、3ヶ月の差しかなく、両者が密接な関係にあることが分かります。

以上の点を整理すると、以下のような商品循環と債券循環の関係が、仮定されます。

(1)商品循環がピークとなっても、CPIのインフレが継続するために、短期金利政策金利)がピークアウトするまで、1年程度のタイムラグがある。
(2)短期金利がピークを打つと、三ヶ月程度の短い間に、長期金利がピークアウトし、債券循環のボトムを打つ。
(3)従って、商品循環のピークは、債券循環のボトムの1年程度の先行指標となりうる。

この仮定が正しいかどうは、次回以降に、1920年の商品循環のピークで検証してみることにします。

次回は、FF金利景気循環の関係を整理してみようと思っています。