商品循環 第53回 1950年の金融政策を振り返る

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第52回 長期金利のボトムでの商品価格高騰のメカニズム
第51回 長期金利と商品循環の関係
第50回 長期金利のデータを取得・編集する

前回までに、長期金利の循環と商品循環の比較により、特に、1950年前後の長期金利のボトムでの商品価格高騰のメカニズムが分かってきました。

今回は、さらに、1950年前後の金融政策との関連を時系列的に調べて、商品価格高騰の背景を調べてみようと思います。

1.長期金利の低下

以下は、米国の長期金利(10年米国債利回り)の推移です。
1921年1月に、5.09%のピークを付けてから、20年後の1941年1月に、1.95%まで低下します。

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2.FRB国債引き受けと長短金利の固定化

1941年12月の真珠湾攻撃で、米国は太平洋戦争に突入しますが、戦争の拡大が財政赤字とインフレの拡大につながることから、長期金利は、一時、急上昇します。

長期金利の上昇抑制と財政ファイナンスを目的に、同月中に、FRBによる米国債買い入れが開始されます。

この時から、約10年間にわたって、長期金利は、2.5%にほぼ固定化されます。

長期金利が固定化されると、それ以外の金利も同様に固定化されました。

3ヶ月TB・・・0.375%
1年物利付き国債・・・0.875%~0.9%
4年半物・・・1.5%

以下のように、イールドカーブは、1942年から1947年半ばにかけて、固定化されました。

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3.ベースマネーの拡大

以下は、米国の政府債務のGDP比での推移です。
第二次世界大戦の戦費拡大で、1940年代後半に、政府債務がGDP比で110%近くまで拡大しています。

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長期金利を2.5%に固定する為に、FRBが多額の政府債務を引き受けた結果、ベースマネーが拡大しました。
以下のグラフは、1940年1月から1950年12月までのマネタリーベースの推移です。
AMBNS

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上のように、1940年から1946年にかけて、マネタリーベースは、二倍以上に拡大しています。

4.過剰流動性の発生と商品価格(PPI)の上昇

ベースマネーの拡大によって発生した過剰流動性は、前回の商品循環のピークから20年が経過し、ファンダメンタルズが好転している商品に流れ込んで、価格が上昇を始めます。

以下のグラフは、1940年1月から1954年12月までの、PPIの前年同月比の推移です。

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1942年のピークは、商品価格が上昇を始めた初期の段階で、1947年が1回目の商品循環のピーク、1951年が2回目の商品循環のピークです。

1942年の商品価格の上昇が、ベースマネーの拡大時期とほぼ、一致していることが分かります。

5.消費者物価(CPI)の上昇(インフレ)と下落(デフレ)

商品価格に続いて、過剰流動性は、消費者物価(CPI)を押し上げます。
1946年7月から、1年間、CPIの前年比が10%を超えて、ピークの1947年末から1948年初めは、20%を越えていました。

しかし、当時も、FRBによる国債買い入れ政策が継続しており、長期金利が2.5%に抑えられていることから、政策金利の引き上げも、抑制され、せいぜい、1%引き上げる程度でした。

FRBによる強力な金融引締めが行われなかったにも関わらず、その後、第二次世界大戦終結とともに米国の財政赤字が急速に縮小し財政黒字に転じると、1948年から1950年にかけて、インフレが解消し、一転して、デフレが進行しました。

1951年に入ると、朝鮮戦争の勃発により、インフレが再燃しますが、これも、1952年には、落ち着きます。

これらの動きを見て分かるのは、60年周期の長期金利のボトムでは、過剰流動性流入や、戦争などの一時的な要因で、CPIのインフレが生じるものの長続きせず、基本的には、デフレの傾向が強いと言えます。

6.アコードの締結と長期金利の反転上昇

FRBによる国債買い入れは、1951年3月に財務省連邦準備制度の間で「アコード」が成立することをもって終了します。

その後、長期金利は、反転上昇を始めて、約30年後の1981年の長期金利のピーク(15.82%)に繋がっていきます。

7.まとめ

1950年前後の金融政策を振り返ると、長期金利の底において、FRB国債を引き受けたことにより、ベースマネーが拡大して、過剰流動性が発生したことが、商品価格上昇の契機だったと考えられます。

過剰流動性によって、消費者物価も上昇しますが、一時的なものに終わるのは、長期金利が低い水準にあって、債券から商品への資金シフトが発生し難かったことが、原因として考えられます。

次回は、やはり、60年周期の長期金利の底にある現在と、1950年と比較してみようと思います。