商品循環 第52回 長期金利のボトムでの商品価格高騰のメカニズム

今回は、前回に引き続いて、米国の長期金利と、商品循環との関係を調べて、特に、長期金利のボトムでの商品価格高騰のメカニズムを解明したいと思います。

1.長期金利のピークにおける商品循環のピーク

前回までに調べたように、60年周期の長期金利のピークと商品循環のピークが、ほぼ、一致するという現象は、以下のような理由で説明されます。

・マネーサプライの増大によるインフレの高進
・債券(金融資産)から商品(実物資産)への資金のシフト

また、以下のように、長期金利のピークが明確に表れるために、観測も容易であり、これまでのデータ分析から、商品循環(PPI)のピークから、9ヶ月後~20ヶ月後に、長期金利が反転下落するということが分かりました。



2.長期金利のボトムにおける商品価格高騰のメカニズム

一方、長期金利のボトムと商品循環のピークの関係は、上のように、チャート上に長期金利のボトムが明確に現れないこともあり、定義が難しいと言えます。

先ず、長期金利の底で商品価格の高騰が起こるメカニズムを、考えてみたいと思います。

(1)長期債金利の低下→短期債金利の低下

長期債金利が低下することによって、短期債金利も低下が促されます。

以下の図は、1927年から2007年までの、米国債3ヶ月債利回り(橙色)、米国債10年債利回り(緑色)、S&P500株式配当利回り(紺色)の推移です。

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上のように、一時的に、長短金利のスプレッドが開いたり、短期債利回りが、長期債利回りを上回ることも、ありますが、総じて、両者は同じ方向で推移しています。

(2)短期債金利の低下→政策金利の引き下げ

長期債金利の低下によって、短期債の金利が低下して来ると、中央銀行は、政策金利を引き下げて、金融緩和を行うことが容易になります。

この時期は、インフレの懸念が小さいために、中央銀行が、国債保有して、市場にマネーを供給するといった、大胆な金融緩和措置も、実行されます。(1940年代の国債買い入れと現在のQE2)

以下のチャートは、1940年代の米国の金利と消費者物価の動きです。
出典:REITI Research & Review 2003年8月号 国債金利と金融政策
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3ヶ月債(90day)金利は、1942年以降、1947年半ばまで、3/8パーセントの水準で固定されており、この期間中に、大胆な金融緩和が行われていたことが、分かります。

金融緩和措置の継続で、1946年半ばから、CPIのインフレが激しくなり、1947年半ば以降、金融引締めに転じることになります。

また、長期金利についても、FRBによる国債買い入れによって、1941年間から約9年間、2.5%に固定化されていました。

長期金利が反転上昇するのは、1951年の財務省FRBのアコード締結によって、FRB国債買い入れが中止した後となります。

(3)過剰流動性の発生→商品価格の上昇

中央銀行によって、大胆な金融緩和が行われ、過剰流動性が発生すると、その資金は、ファンダメンタルズの良好な資産に向かいます。

例えば、1947年の商品循環のピークでは、1920年の商品循環のピークから、30年経過して、鉱山などの在庫循環が好転し、さらに、第二次世界大戦後の消費ブームにあった事を背景に、過剰流動性が商品に向かい、商品循環のピークとなったと考えられます。

現在の商品循環のピークでは、1980年の商品循環のピークから、30年経過して、鉱山などの在庫循環が好転し、さらに、中国などの新興国の成長に伴う商品需要の拡大に伴い、過剰流動性が商品に向かい、商品循環のピークとなったと考えられます。

(4)まとめ

以上の点を踏まえると、60年周期の長期金利のボトムで、商品循環のピークが発生するメカニズムは、以下のとおりです。

長期金利の低下が短期金利の低下を促す。
短期金利の低下を背景に、中央銀行が大胆な金融緩和を実施する。
・大胆な金融緩和が過剰流動性を生み出す。
過剰流動性が、ファンダメンタルズの良好な商品に流れ込み価格が高騰する。

3.長期金利のボトムからの反転上昇のシナリオ

さらに、長期金利のボトムからの反転上昇のシナリオを考えると、以下のとおりです。

(1)長期金利のピークから25年の時間的経過
(2)中央銀行の大胆な金融緩和措置の実施・・・政策金利の引き下げと国債の買い入れ
(3)過剰流動性の発生・・・ベースマネーの拡大
(4)商品価格の高騰・・・PPIとCPIのインフレ
(5)中央銀行の金融引締め・・・政策金利の引き上げと保有国債の減少
(6)長期金利の反転上昇

現在(2011年10月)は、(3)から(4)の中間に位置していると考えられます。
今後、PPIとCPIのインフレ発生、FRBによる金融引締めと保有国債の減少があった後、長期金利のトレンドが反転上昇すると予想されます。

特に、FRB保有国債の減少が、長期金利の反転上昇の重要なサインであると考えています。

次回は、改めて、1940年代の金利と商品価格、ならびに、金融政策を掘り下げて分析することにします。