コーヒー相場に対する見解

コーヒー生豆は石油に次ぐ貿易規模を誇る一次産品です。中国やブラジルの成長は、コーヒー生豆の需給についても、大きな影響を与えています。

まず、需要面から調べると、世界全体のコーヒー消費量は、米国農務省の発表では、2005~06年度の前年度の704.3万トンから728.2万トンと3.3%増加しています。今後も先進国では、大幅な消費量の拡大は望めませんが、スペシャリティーコーヒーの需要拡大に伴う高級なアラビカ種の需要が堅実に伸びると考えられます。新興国では、中国とブラジル、東欧諸国の消費量が急拡大しています。
 中国では、都市部を中心に、所得の増加、食事の西洋化、欧米のコーヒーチェーンの進出などに伴い、コーヒーの愛好者が増えた結果、コーヒー生豆の消費量が、2004年には前年比14.7%増の3.27万トンに達しました。2000年の消費量が1.89万トンですから4年間で1.7倍に膨らんだ計算です。今後も毎年、10%以上の消費量の増加が予想されるため、2015年には2000年の20倍以上の40万トン弱に達する見込みです。その結果、中国は10年以内に日本と同規模の世界第3~4位のコーヒー生豆消費国になります。世界的なスペシャリティコーヒーの需要拡大によって好業績を続けているスターバックスも、中国への出店を加速中で、2006年から2007年の一年間で100店舗から300店舗と3倍に拡大させる予定です。
 また、世界最大のコーヒー生産国であるブラジルでは、生活水準の向上に伴って、国内で消費されるコーヒー生豆の量が急増しています。2000年の79.7万トンから2005年には、約17%増の93.2万トンとなり、米国に次いで世界第二位のコーヒー生豆消費国になりました。2010年には、ブラジルが米国を抜いて、世界最大の消費国となると見込まれています。このように、ブラジルの国内消費が増加すると、輸出余力の減少から世界のコーヒー需給を逼迫させます。

 次に供給面の動向を調べてみます。コーヒーは、コーヒーベルトと呼ばれる南北回帰線に挟まれる熱帯地域の標高500mから2,500mの高地で栽培されています。アラビカ種などの良質のコーヒーを栽培するためには、標高が1500m以上の傾斜地で、年平均気温が20度くらい、年間雨量が1500ミリで、有機質・各種無機成分を適量に含んでいる火山性の土壌などの条件が必要となります。さらに、高地の傾斜地で栽培するために、低廉で豊富な労働力も必要です。このように多くの条件があるため、定期的に安定した生産を行なうことが出来る地域は限られています。今のところ、主要生産国はアラビカ種がブラジル、ロブスタ種がベトナムとなっており、特にブラジルの生産量は世界総生産のおよそ30%を占め、ベトナムの生産比率は7%程度となっています。
 コーヒーは、標高が高いほど、良質の豆を収穫できますが、霜害の被害が大きくなります。1975年の霜害では、ブラジルのコーヒー生産量が、半減してしまうほどの被害がありました。また、コーヒーは、病害にも弱く、かつては、さび病によってスリランカのコーヒー農園やインドネシアのアラビカ種の農園が壊滅した歴史があります。
 また、コーヒーの木は、成長するまでに数年を要するために、需要の変化に合わせて生産量を増減させることが難しい作物です。現在は、供給量に比べて、需要が強いために、価格が高めに推移し、コーヒー農園は利益を上げていますが、2001年~2004年末にかけての時期には生産コストを下回る水準まで価格が下落していました。この時期は、冷戦崩壊後にコーヒー価格の保護政策が実質的に廃止されたほか、1995年に米国との国交正常化によりベトナムが市場に参入し、同国の生産量が急激に拡大したことを受けて価格が下落したからです。
 このように、農家に多大なリスクを強いるコーヒー栽培ですが、生産国、特に、ブラジルにとってコーヒーは外貨獲得のための重要な輸出品であったため、従来は政府が需給や生産動向を調整することにより、貿易収支の拡大を図る手段として用いられてきました。しかし、最近の原油価格の高騰によって、ブラジル政府の外貨獲得手段としての比重はコーヒーからバイオ燃料に移ってきています。ブラジルでのバイオ燃料生産は、主に、栽培が容易な一年草のサトウキビや大豆から作られるために低コスト・大量生産が可能で、コーヒー栽培よりも多くの利益が得られます。このようなことから、中長期的に、ブラジルの農家がコーヒーの作付け面積を大幅に増やすインセンティブは見当たらないため、今後も需給の逼迫した状態が続くと予想されます。

 足元の世界のコーヒー在庫を調べてみると、2002-2003年の181.2万トンから2005-2006年の89.7万トンと半分に減っています。今後も大幅な在庫積み増しは難しいと考えられます。

 2006年のニューヨークコーヒー相場は、100~120セントのレンジ内で推移していましたが、ブラジル政府が12月に発表した同国の07~08年度のコーヒー生産高見通しが、3110~3230万袋と減産幅が市場予想を上回ったことが支援要因になって、12月に入ると125セント代に値を飛ばすなど上げ足を強めました。現在は、120セント前後の水準で推移していますが、ブラジルでは今年がコーヒー栽培の裏作に当たるため、これから在庫が減少することは確実で、価格も徐々に需給逼迫化への流れを織り込んで、140-150セントを目指す展開を予想しています。