商品循環 第3回 景気循環との相違点 回復期


前回は、商品循環と景気循環が在庫循環という点で類似性があることを調べました。

今回は、在庫循環における四つの期間(好況、後退、不況、回復)の中から回復期に焦点を絞って、商品循環と景気循環の相違点を、調べてみる事にします。

例として、景気循環では、製造業による工業製品の生産を、商品循環では、鉱山開発による鉱石の生産を挙げて説明します。

1.製造業による工業製品の生産

  景気循環の回復期において、資金力のあるトップ企業は、他社に先行して、生産の拡大に乗り出します。
  具体的には、以下のようなプロセスを経て、生産の開始を行います。

 (1)資金調達

    生産開始に必要な資金を、銀行からの借り入れや、社債や株式の発行によって調達します。

 (2)用地確保

    インフラや雇用環境、税制などを考慮して、最も有利な場所に工場用地を確保します。

 (3)設備導入

    工場を建設して、製造設備を導入します。

 (4)人材確保

    製造に携わる人材を新卒・中途採用によって、雇用して、教育・研修を行います。

 (5)生産開始

    全ての準備が整った時点で、生産を開始して、市場に投入します。

2.鉱山開発による鉱石の生産

  商品循環の回復期においても、資金力のあるトップ企業は、他社に先行して、生産の拡大に乗り出します。
  具体的には、以下のようなプロセスを経て、生産の開始を行います。

 (1)資金調達

    生産開始に必要な資金を、銀行からの借り入れや、社債や株式の発行によって調達します。

 (2)用地確保

    政府から鉱山開発の権益を獲得します。
    多くの場合、競争入札となり、最も高値を提示した業者が権利を得ます。

    また、鉱山開発の場合、環境汚染のリスクが高い為に、環境アセスメントの実施、地元の関係者への説得などの対策が必要となります。

    さらに、大半の鉱山が未開発の地域に存在するために、鉱山から掘り出した鉱石を搬出するための道路や港湾の整備や、労働者のための住宅の建設などの、インフラ整備が必要となります。

 (3)設備導入

    掘削機械や大型トラックなどの設備を導入します。

 (4)人材確保

    鉱山技術者、労働者を雇用して、教育・研修を行います。

 (5)生産開始

    全ての準備が整った時点で、生産を開始して、市場に投入します。

3.両者の比較

 (1)資金調達

     景気回復期には、政策的に金利が低く抑えられています。従って、製造業者による資金調達は、他の時期に比べて比較的に楽になります。

     一方、商品循環の回復期は、市場金利との関連が無い為、低金利での借り入れが出来る可能性は低くなります。

     また、鉱山開発における資金回収期間は、工業製品の製造よりも長くなるので、相対的に高い金利での借り入れを余儀なくされます。

 (2)用地確保

     通常、自治体は、地域振興の為に、工業団地を造り、進出企業に対して税の減免などのインセンティブを与えます。
     従って、企業は、最も有利な地域を選択して用地を確保できます。

     一方、鉱山開発では、採掘場所が当初から決まっているので、このようなインセンティブは、与えられません。
     さらに、権益確保や地元対策、インフラ整備などの資金が必要となります。

 (3)設備導入

    工場建設においては、中古の工作機械や倒産企業の製造設備を、安価に導入することが可能です。

    一方、サイクルの長い鉱山開発では、中古の掘削機械は既に陳腐化していると考えられます。

 (4)人材確保

    景気が悪化すると、回復するまでの数年間は、失業保険などの政策手段で人材が労働市場にプールされます。
    また、教育機関においても、工業や商業などの専門的なカリキュラムが維持されて、継続的に人材が養成されます。
    従って、景気の回復期には、企業は、中途採用・新卒採用のいずれでも、多数の良質な人材を容易に採用出来ます。

    一方、30年が1サイクルと低迷期も長い鉱業では、経験のある技術者は、労働市場から去ってしまいます。
    また、教育機関における鉱山学などのカリキュラムも、長い低迷期の間に、徐々に閉鎖される為、回復期に、多くの人材を養成して送り出すことが出来なくなります。
    従って、商品循環の回復期には、企業は、中途採用・新卒採用のいずれでも、十分な人数の良質な人材を採用することが困難となります。


4.考察

 以上のように、商品循環の回復期は、景気循環の回復期と比較して、参入コストが相対的に高くなり、リードタイムも長くなります。

 特に、鉱業の人材確保は、トップ企業であっても資金力で解決することが困難であり、回復期のクリティカルな期間であると言えます。

 例えば、鉱山学のカリキュラム開講準備(1年)から、教育(4年)・研修期間(2年)を考えると、7年前後のクリティカルパスになると考えられます。

次回は、実際に、鉱山の生産開始までの年数を調べてみることにします。