1.前回のまとめ
前回までに、日本の消費税増税後の景気後退を予測する先行指標として、個人向けの新規住宅資金貸付額が有効であることが分かりました。
今回は、それ以外の住宅・不動産関連の指標についても、調べていくことにします。
2.新規住宅資金貸付額の利点と欠点
日本の景気後退の先行指標としての、新規住宅資金貸付額の利点と欠点を整理すると以下のようになります。
【利点】
・信頼性が高い
新規住宅資金貸付額が含まれている預金・貸出関連統計は、日本銀行が国内銀行の決算報告データを集計して公表している統計ですので、非常に信頼性が高いと言えます。
・網羅する範囲が広い
・過去データの蓄積量が大きい
最も古いデータとして1974年まで遡ることが可能であり、複数の景気循環に渡って、長期的な分析を行うことが可能です。
・実需のデータのみが含まれる
実際にローンを組んで、住宅を購入する顧客のデータのみがカウントされているため、見込み需要などが排除され、正確性が高いと言えます。
【欠点】
・集計期間が四半期(三ヶ月)と長い
集計の期間が四半期(三ヶ月)であるため、月次などの詳細なタイムスケジュールの分析が出来ません。
・タイムラグが長い
日本銀行の預金・貸出関連統計は、対象の四半期終了月の翌々月の半ばに、公表されます。
例えば、第一四半期データは、6月10日頃に発表されるので、約1ヶ月半のタイムラグがあります。
さらに、新規住宅資金貸付額のピークアウトを確認するためには、2四半期の連続したデータが必要ですから、約4ヶ月半のタイムラグが発生します。
もし、四半期の最初の月がピークだったすると、最大で約7ヶ月半のタイムラグとなります。
このように、実際のピークアウトが発生してから、データで確認するまでのタイムラグが長いのが、新規住宅資金貸付額を利用する上での最大の問題と言えます。
3.新設住宅着工戸数
新設住宅着工戸数は、国土交通省が住宅の建築申請に基づいて、月次で発表しているデータです。
2003年7月から2013年4月までの、新設住宅着工戸数の12ヶ月移動平均の推移は、以下のようになっています。
グラフのように、景気後退入りの約1年前に、大きく下落しており、景気後退の先行指標として、期待できます。
【主なポイント】
新設住宅着工戸数のピーク・・・2007年1月
新設住宅着工戸数の利点と欠点をまとめると、以下のようになります。
【利点】
・信頼性が高い
全ての公的な建築申請が、国土交通省によって集計されているため、信頼性が高いと言えます。
・網羅する範囲が広い
一戸建て持ち家、一戸建て分譲、分譲マンション、賃貸マンションといった単位で細かく集計されており、網羅する範囲が広いと言えます。
集計の期間が月次であるため、四半期単位の新規住宅資金貸付額よりも、時間的に、詳細な分析が可能です。
・タイムラグが短い
新設住宅着工戸数は、対象月の翌月の末に、国土交通省から公表されます。
ピークを確認するためには、三ヶ月の連続したデータが必要であるとすると、最大で約4ヶ月のタイムラグとなります。
これは、最大で約7ヶ月半となる新規住宅資金貸付額よりも、3ヶ月以上短い期間です。
【欠点】
・過去データの蓄積量が小さい
新設住宅着工戸数の最も古い月次データは、2002年7月までしか遡ることが出来ないため、2008年3月~2009年3月の一回の景気後退との関連分析しか出来ません。
特に、最も重要である過去の消費税導入/増税時の住宅の駆け込み需要発生時における、新設住宅着工戸数の月次での動きを知ることが出来ません。
・ノイズが大きい
12ヶ月移動平均を取っても、ノイズ(月単位での増減)が頻繁に見られるため、ピークアウトの判断が難しい面があります。住宅の規模とは無関係の戸数単位のデータであることが関係していると思われます。
・実需以外のデータが含まれる
分譲住宅、分譲マンションは、不動産会社の需要予測に基づいて建設されるので、経済状況によって変動が大きくなります。また、賃貸住宅、賃貸マンションなどでは、オーナーの相続税対策といった実需以外の動機で建設される場合もあります。
4.まとめ
新設住宅着工件数は、正確でタイムリーなデータであり、景気後退の先行指標としての利用価値が高いと思われます。
ただし、過去のデータ蓄積が少なく、ピークアウトの判断も難しいため、最も重要な新規住宅資金貸付額による判断を補完する指標として位置づけることが、現時点では、妥当であると考えられます。