ロシアから北東アジア(日本・韓国・中国)への石油・天然ガスの供給動向

イメージ 1

JOGMECが、ロシアから北東アジア(日本・韓国・中国)への石油・天然ガスの供給動向について、レポートしています。


上の地図は、ロシアの東シベリア及びサハリンから、北東アジア(日本・韓国・中国)までの、石油と天然ガスの供給網を表しています。

・2 0 0 9 年暮れから輸出が開始された東シベリア・太平洋(ESPO)原油は、中質・低硫黄であり、中東原油とは異なりホルムズ海峡、マラッカ海峡等のチョークポイントを通過せず短距離で供給されること、仕向け地条項(Destination Clause)がなく取引に柔軟性があることから、ドバイ原油に対して最近ではバレルあたり6 ドル近いプレミアムで取引されるなど、市場では高い評価を得ている。

・日本の原油輸入に占めるESPO原油・サハリン原油の比率は、2 0 1 0 年に7%、2 0 1 1 年は震災の影響で4%まで低下したものの、2 0 1 2 年には相応に回復するものと思われる。

・現状日量3 0 万バレルで輸出されているESPO原油は、ESPO-2 の完成でKozminoターミナルまでパイプラインがつながり、2 0 1 3 年には日量7 0 万バレルまで拡大される。日本向けの輸出量も拡大するものと思われる。

・ESPOパイプラインへの原油供給を拡大するために、西シベリア北東部のクラスノヤルスク地方で、Vankor-Purpe石油パイプラインから原油をESPOパイプラインに効率的に流すPurpe-Samotlorパイプラインが2 0 1 1 年1 0 月に稼働開始となった。当初の通油能力は日量5 0 万バレルとなり、最大日量5 0 万バレルの生産量を目指すVankor油田の拡張およびその他の油田の稼働開始に備える。

・更に、Zapolyarie-Purpe石油パイプラインが2 0 1 2 年に建設開始となる。当初能力は日量24万バレルである。これはヤマル半島近隣の油田の開発を促すパイプラインで2 0 1 6年完成をめざす。

・Vankor-Purpeパイプラインの延長先にはフロンティア地域のYenisei-Khatanga堆積盆地があり、新規の油田発見が報告されている。

天然ガスパイプラインに関しては、年間輸送能力が当面6 0 億m3、主要区間の口径4 8”(1,2 2 0mm)のSakhalin-Khabarovsk-Vladivostok:SKV パイプラインが2 0 1 1 年9 月に完成し、ウラジオストクへのガス供給が開始された。

・「朝鮮半島」パイプラインは、2 0 1 1 年8 月に金正日総書記とメドヴェージェフ大統領の間で検討することが合意され、後継の金正恩政権もこの方針を堅持する方針である。

・韓国はこのパイプライン計画を念頭に、2 0 0 8 年にロシアと年間1 0 0 億m3 のガスを輸入することで合意している。

・このパイプライン計画に対して北朝鮮側が大きな政策転換で応えた点も大きいが、韓国がこれまで輸入ガスの1 0 0%をLNGに依存していたのを、パイプラインガスを導入して天然ガスの受け入れ形態を「デュアル・システム」にしようとしていることが最も重要である。韓国はこれにより、約2 0%安価なガスが調達でき、なおかつLNGに対して価格の交渉力を保有できる。

・パイプライン供給が途絶するのではとの懸念が発せられることがあるが、北朝鮮がパイプラインに妨害工作を施すことは、自らの利益を放棄することとなり、経済合理的な観点からは選択肢とはなり得ない。一方、ロシアが韓国に対して供給停止をするのではとの懸念に関しては、ロシアが自国の天然ガス資源が他のエネルギー資源との間で「燃料間競争」に晒されていることを認識している限りはあり得ない。ここで重要なことは需要国側はLNG等の対抗手段を有していることから、供給国側が需要国側に対してパイプラインを一方的な「武器」として使用することは不可能だということである。これを、ミサイル防衛における「相互確証破壊」のアナロジーとして、パイプラインにおける「相互確証抑制」と呼ぶ研究者もいる。パイプラインは基本的に互恵的、双務的な機能を有しており、「武器」ではなく、地域の「安定装置」として機能してきた歴史がある。