粗糖相場の長期見通し

【砂糖需給】
糖商大手のF.O.リヒト社によると、2006-07年度(10月-9月)の砂糖の世界生産は、世界的に天候に恵まれ、前年比9.6%増の1億6,730万トンとなりました。すなわち、2006-07年度は、過去最高の豊作年になりました。
2007-08年度の生産は、前年から更に400-500万トン増えて、約1億7,200万トン前後と予想しています。引き続き天候に恵まれている上に、2006年初頭の粗糖価格の上昇によって、農家の生産意欲が高まったからです。
このうち、輸出可能な砂糖は、前年から770万トン増えて5,130万トンに達すると予想されています。
一方、砂糖の消費は、中国などの新興国の経済成長によって、1億5,000万トンと前年から2.9%増加すると予測されています。
この結果、2006-07年度の世界砂糖市場は1,200万トンの供給過剰、2007-08年度も200-1,000万トンの供給過剰になるとの見方を示しています。

エタノール需給】
粗糖の原料であるサトウキビはエタノールの原料でもあります。ブラジルでは一つの精製所で砂糖とエタノールの両方を生産し、2005/2006年度に砂糖の生産に使用されたサトウキビの量は2億1,604万トン、アルコール生産向けは1億7,837万トンとなりました。
これまで、精製所で砂糖とエタノールの生産割合を決める要素は、砂糖の国際価格でした。すなわち、粗糖相場が低迷しているときには、エタノールの割合を増やして砂糖の割合を減らし、逆に、粗糖相場が高騰しているときには、砂糖の割合を増やして、エタノールの割合を減らす傾向にありました。現在では、さらに、原油高の影響によるエタノール価格の高騰が生産割合を決める大きな要素となっています。
ブラジル国内ではアルコール、ガソリン両方の燃料を使って走るフレックス車が国内販売台数の7割を占めていますが、2005年以降、国内外でのアルコール需要増加の影響もあってアルコール価格上昇が問題となっています。
2005年におけるサンパウロ州の無水アルコールの生産者年間平均価格は0.84レアル/リットル(約30円/l)と前年と比べ25%上昇し、2005年12月の価格も1.00レアル/リットル(約37円/l)を超える高水準を記録しました。
2006年に入って、収穫の初期段階で、サトウキビがエタノール生産に優先的に振り分けられたことから、供給が一時的に増加し、5月25日までの週のサンパウロ州における無水アルコール平均価格は1リットル0.7642レアルと大幅に下落しました。価格が大幅に下落するほどエタノールの供給が拡大しているということは、粗糖生産に振り分けられるサトウキビが予想以上に減少していることを意味しています。
7月には、ブラジルの生産者団体(Unica)から、今年度のサトウキビ収穫のうち、前年からの増加分はほとんどエタノール生産に回されるとのレポートが出されました。また、同時期に、ブラジルの主要生産地である中南部の砂糖生産量が前年比で70万トンのマイナスとなるというレポートも発表されました。

バイオ燃料としての重要性を増すエタノール
原油価格およびガソリン価格の高騰によって、各国がエタノールなどのバイオ燃料の利用を促進している中で、サトウキビから作るエタノールが着目されています。
米国では、政府のバイオ燃料促進政策の補助を受けてエタノールの原料としてトウモロコシの作付けが急拡大していますが、トウモロコシは乾燥に弱く栽培・精製にコストがかかる上に、将来のエタノール需要を満たすための作付面積を米国内で拡大することは困難であると言われています。
OECDの試算(2005年)によると、現在の技術・生産性を前提とするかぎり、多くの国が目標とする輸送燃料の10%をバイオ燃料で賄うために新たに必要になる耕地面積は、現在の穀物・油料作物・砂糖作物の収穫面積に対する比率で、米国で30%、カナダで36%、EU15ヵ国で72%にもなり、先進国では、このような耕地面積の拡大は、事実上、不可能と考えられています。
ただし、ブラジルだけは、将来的に、世界中で使用されるガソリンの10%に置き換わるエタノールも十分に供給できると言われています。これは、ブラジルでバイオエタノール用に栽培されているサトウキビは、粗放的な耕作が可能で、コストが安く、トウモロコシの5~6倍の単位採熱量があるためです。
日本などの多くの先進国は、ブラジルからのエタノール輸入の拡大によってしか目標を達成することができないのが現状です。

【ブラジルのエタノール輸出の将来像】
ブラジル農務省は、2012/2013年度における総需要は、340億リットルに達し、輸出は80億リットルに達すると推計しています。

また、民間の農業調査会社FNPの推計では、2012/2013年度には、生産量364億リットルに対して、輸出125億リットル、国内消費237億リットル、最終在庫43億リットルと見通しており、内外の生産量の増加を、約10%と見込んでいます。

さらに、7月に発表された英国の調査会社のレポートでは、2007/2008年度のブラジルのエタノール生産が、2006/2007年度比で政府見通しよりも190億リットルと、FNPの推計よりもさらに高く、20%の増加を予測しています。

【粗糖相場】
粗糖相場は、大幅な砂糖の供給過剰の懸念から、2006年以降、2007年6月まで値下がりを続けてきました。しかし、原油価格上昇によるエタノール需要の増大に注目が集まり、7月に入って10セントを超える価格までに値を戻してきました。

今後も原油価格の上昇速度に比例して、ブラジルのエタノール需要は、毎年10%以上拡大するものと考えられ、また、新興国の砂糖需要も毎年3%以上伸びていることも合わせると、中長期的にサトウキビに対する需要は非常に強く、ブラジルやインドが供給を拡大しても、需給がタイトになる傾向が続くと考えられます。
粗糖相場は、現在の10セントを底に、数年以内に史上最高値の更新を試すものと考えられます。