【直近の履歴】
第13回 1900年から1947年の原油価格
第12回 1859年から1899年の原油価格
第11回 商品循環のピークにおけるPPIの振る舞い
今回は、前週に続いて、1950年から1980年の原油価格の動向とPPIとの関係を調べたいと思います。
参考にする資料は、EconbrowserのJames D. Hamilton氏が、1月15日の記事(Oil shocks and economic recessions)で、米国の過去の原油価格の高騰について調べた結果のレポート(History of Oil Shocks)です。
1.1950年から1953年 朝鮮戦争による供給不安
朝鮮戦争が発生して、1950年1月25日から1953年2月13日の間、原油価格は政府によって統制(固定化)されました。
また、イランでは、1951年の夏に石油産業が強制的に国営化され、世界各国は、その対抗策として、月量1900万バレルのイラン産原油の買付を停止しました。
これは、アンバーダーン危機と呼ばれているものです。
1952年4月30日には、米国の精製所でストライキが発生して、米国の精製所の3分の1が停止しました。
その対策として、米国と英国は民間航空への供給を30%削減しました。
カンサスシティとトレドでは、自動車へのガソリンの配給を行い、シカゴでは、300台のバスが運転を停止しました。
1953年の6月に石油の価格固定が終了すると、WTIの価格は10%上昇し、その翌月に、戦後二回目の景気後退が始まりました。
この期間は、1951年の商品循環のピークに位置しており、PPI前年同月比の推移を見ると、以下のとおりです。
1950-01-01 25.9 -5.13% <=原油価格の統制(固定化)
1950-02-01 26.1 -2.61%
1950-03-01 26.1 -2.61%
1950-04-01 26.1 -1.51%
1950-05-01 26.4 0.38%
1950-06-01 26.6 2.31%
1950-07-01 27.3 5.00%
1950-08-01 27.9 7.31%
1950-09-01 28.4 8.81%
1950-10-01 28.6 10.00%
1950-11-01 29.0 11.54%
1950-12-01 29.7 14.67%
1951-01-01 30.5 17.76% <=PPIの15%超え
1951-02-01 30.9 18.39%
1951-03-01 30.9 18.39% <=PPIのピークアウト
1951-04-01 30.8 18.01%
1951-05-01 30.7 16.29%
1951-06-01 30.5 14.66%
1951-07-01 30.3 10.99% <=イランの石油会社国有化(アンバーダーン危機)
1951-08-01 30.1 7.89%
1951-09-01 30.1 5.99%
1951-10-01 30.1 5.24%
1951-11-01 30.1 3.79%
1951-12-01 30.1 1.35%
1952-01-01 30.0 -1.64%
1952-02-01 29.8 -3.56%
1952-03-01 29.8 -3.56%
1952-04-01 29.6 -3.90% <=米国の製油所ストライキ
1952-05-01 29.6 -3.58%
1952-06-01 29.5 -3.28%
1952-07-01 29.6 -2.31%
1952-08-01 29.8 -1.00%
1952-09-01 29.6 -1.66%
1952-10-01 29.5 -1.99%
1952-11-01 29.3 -2.66%
1952-12-01 29.1 -3.32%
1953-01-01 29.1 -3.00%
1953-02-01 29.1 -2.35%
1953-03-01 29.2 -2.01%
1953-04-01 29.0 -2.03%
1953-05-01 29.1 -1.69%
1953-06-01 29.0 -1.69% <=原油価格の統制(固定化)解除
1953-07-01 29.4 -0.68%
上記のように、この期間は、米国で原油価格が統制されていたので、原油価格のピークは分かりませんが、おそらく、PPIがピークアウトして、4ヵ月後のアンバーダーン危機の辺りが、実質的な国際価格のピークではないかと思われます。
2.1956年から1957年 スエズ危機
1956年7月にエジプトのナセル大統領は、スエズ運河を国有化しました。
イギリスとフランスは、イスラエルに対して、シナイ半島に侵攻するように説得し、10月29日に侵攻が始まりました。(第二次中東戦争)
この衝突で40隻の船が運河に沈んだ結果、1日100万から150万バレルの原油輸送が途絶えました。
1956年11月の中東の原油生産量は、日量170万バレル減少しました。
当時の中東の原油生産は、世界の10.6%を占めており、特に、全体の3分の2を中東に依存していた欧州は深刻な経済的な打撃を受けました。
しかし、他の地域からの原油生産が伸びたことにより、1957年の2月には、世界の原油生産量は元の水準に回復し、中東の生産量も同年6月には危機以前の水準を回復しました。
その当時のPPIは、以下のとおりです。
1956-01-01 29.7 1.71%
1956-02-01 29.8 1.71%
1956-03-01 29.9 2.40%
1956-04-01 30.1 2.73%
1956-05-01 30.3 4.12%
1956-06-01 30.3 3.41%
1956-07-01 30.2 3.07% <=スエズ危機
1956-08-01 30.4 3.40%
1956-09-01 30.6 3.38%
1956-10-01 30.6 3.38% <=第二次中東戦争
1956-11-01 30.7 4.07%
1956-12-01 30.8 4.41%
1957-01-01 31.0 4.38%
1957-02-01 31.0 4.03%
1957-03-01 31.0 3.68%
1957-04-01 31.1 3.32%
1957-05-01 31.0 2.31%
1957-06-01 31.1 2.64%
1957-07-01 31.3 3.64%
1957-08-01 31.4 3.29%
1957-09-01 31.3 2.29%
1957-10-01 31.2 1.96%
1957-11-01 31.3 1.95%
1957-12-01 31.4 1.95%
一時的に商品価格が上昇していますが、このような突発的な事件では、10%を超えるような商品価格の高騰は生じないことが分かります。
3.1970年代 インフレの時代
1960年代は、原油価格が安定していましたが、1970年代に入ると、 以下のような要因で、原油価格が上昇しました。
・1971年のドルと金の交換停止によるブレトンウッズ体制の終了
・1972年に米国の原油生産量がピークアウト。
・中東産原油への市場のシフト
1973年の春には、多くのガソリンスタンドでガソリンが手に入り難くなりました。
4.OPECの時代
1973年の10月6日にシリアとエジプトがイスラエルに侵攻して、第三次中東戦争が始まりました。
10月17日にOPECがイスラエルを支援している国への原油輸出を禁止しました。
1974年の1月には、ペルシア湾産の原油価格はほぼ二倍になりました。
1973年の12月には、ガソリン価格が12%上昇し、1974年の5月には、50%の上昇となりました。
中東戦争は、1973年の10月22日に停戦となり、OPECは政治的な成果を得られないまま、輸出禁止措置を停止しました。
この期間は、商品循環のピークではありませんでしたが、PPI前年同月比が10%を超える期間が長期間続きました。
1973-01-01 41.6 7.22%
1973-02-01 42.4 8.16%
1973-03-01 43.4 10.71% <=インフレ圧力の高まり
1973-04-01 43.6 10.94%
1973-05-01 44.5 12.66%
1973-06-01 45.5 14.61%
1973-07-01 44.9 12.25%
1973-08-01 47.5 18.45%
1973-09-01 46.7 16.17%
1973-10-01 46.3 15.46% <=中東戦争、OPEC輸出禁止
1973-11-01 46.5 15.38%
1973-12-01 47.4 15.33%
1974-01-01 49.0 17.79%
1974-02-01 50.0 17.92%
1974-03-01 50.6 16.59%
1974-04-01 51.0 16.97%
1974-05-01 51.8 16.40% <=ガソリン不足
1974-06-01 52.0 14.29%
1974-07-01 54.0 20.27%
上のデータを見て気が付くのは、中東戦争の勃発の8ヶ月前に、既にPPIが10%を超えており、原油価格高騰を予測しているような動きを見せていることです。
5.1980年 イラン・イラク戦争
1980年の9月に発生したイラン・イラク戦争で、原油価格が高騰します。
1980-01-01 85.2 15.45%
1980-02-01 86.9 16.02%
1980-03-01 87.5 15.44%
1980-04-01 87.8 14.17%
1980-05-01 88.3 13.94%
1980-06-01 88.7 13.72%
1980-07-01 90.3 14.02%
1980-08-01 91.5 14.95%
1980-09-01 91.7 13.35% <=イラン・イラク戦争
1980-10-01 92.8 13.03%
1980-11-01 93.2 12.83%
1980-12-01 93.8 12.47%
しかし、PPIは既に、1979年1月から10%を超えており、やはり、商品循環のピークがこの時期の価格高騰の原因だと思われます。
3回に渡って、原油価格の推移とPPIの関係を調べて来ましたが、殆どのケースで、石油危機発生の数ヶ月前にPPIの前年同月比が10%を超えていました。
PPIの動きはその後の原油価格高騰を予測する上でも重要であると思います。
次回は、また、元に戻って、商品循環のボトムの探し方を検討してみようと思います。