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円高が景気押し下げ要因であることは間違いない。円高は輸出企業の収益を直撃するほか、日本人が保有する外貨資産を目減りさせる。これに対し、政府は「円高に対しては断固たる対応を取る」と介入をほのめかしている。
しかし、円高問題を議論する場合、次の点を考える必要がある。第1は円レートの変化率と水準の問題だ。円は過去3年間で約3割強くなるなど、円切り上げのペースは確かに速い。しかし、足元の円の水準は、インフレ率調整後の実質レートでみると特に高くはない。単に、円安局面が終了しただけだ。例えば、同じハンバーガーを東京、ニューヨーク、パリで購入し、それを外貨換算してもほぼ似たような値段だ。
第2に介入の効果だ。為替介入が有効なのは、為替レートの水準が長期的均衡値から大幅に乖離している場合、あるいは金融政策の発動と同時に行われる場合だ。しかし、現状の円レートの水準は長期的均衡地からさほど離れているわけではない。介入の有効性を保つためには、大胆な金融緩和を併せて実行する必要があるが、本当に可能か。単独介入は市場の格好の餌食にされ、円高を加速しかねない。
第3は円高対策の位置づけだ。確かに円高で困っている企業を救済するのは政治の役割で、景気対策は必要だ。半面、日本経済が抱える長期的課題、すなわち増え続ける社会保障費への対応や大幅に遅れた経済の対外開放、移民問題などから目を背け、厳しい現実から逃避するための口実となってはないだろうか。
確かに円高は短期的には企業収益にマイナスだが、遅れている日本企業の国際化を加速する好機でもある。この円高局面を逆手にとり、体質を強化できる企業が21世紀に勝ち残る企業となるだろう。国内の雇用の主要な担い手はサービス業にシフトしよう。規制緩和による競争力のあるサービス業の育成が不可欠だ。
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