イグ・ノーベル賞 ランダム昇進の有効性について

この話題は、twitterで流したところ反響が大きかったので、記事化することにしました。
従って、今回の記事は、普段の投資や経済とは、殆ど関係有りません。

今回、イグ・ノーベル賞 経営学賞を受賞したのは、「従業員をランダムに昇進させれば企業がより効率的に機能する」ことを数学的に証明したイタリアのカターニア大の研究者 Alessandro Pluchino, Andrea Rapisarda, Cesare Garofalo です。


彼らの研究は、階層組織の構成員の労働に関して、以下のようなピーターの法則が成立するという前提に基づいています。


  1. 能力主義の階層社会に於いて、人間は能力の極限まで出世する。すると有能な平(ひら)構成員も無能な中間管理職になる。
  2. 時が経つに連れて人間は悉く出世していく。無能な平構成員はそのまま平構成員の地位に落ち着き、有能な平構成員は無能な中間管理職の地位に落ち着く。その結果、各階層は無能な人間で埋め尽くされる。
  3. その組織の仕事は、まだ出世の余地のある、無能レベルに達していない人間によって遂行される。

簡単に言うと、すべての階層社会において、下層の段階で有能ということになると、次のレベルに昇進する。
新しい地位でも有能と認められれば、さらに次の昇進が待っている。
つまり、すべての人にとって、最後の最後の昇進は、有能レベルから無能レベルへの昇進となるということです。
もしも、十分に時間があれば、そして組織に十分な階層があるなら、すべての個人は、その人なりの無能レベルに行きつくまで昇進し、その後はそこに留まり続ける事になります。
ただし、現実問題としてはすべての社員が無能レベルに達している組織はあまりないので、無能レベルに達していない人によって、組織に必要な仕事は成されているということです。
名言集 ローレンス・J・ピーター ピーターの法則より

このピーターの法則は、1969年、南カリフォルニア大学教授の教育学者ローレンス・J・ピーター(Laurence J. Peter)によりレイモンド・ハル(Raymond Hull)との共著 THE PETER PRINCIPLE の中で提唱されたもので、この原理はモデル化され理論的な妥当性を有しているそうです。

この本は、日本語にも翻訳されて、販売されています。
ピーターの法則 amazon

今回、イグ・ノーベル賞 経営学賞を受賞したイタリアのカターニア大の研究チームは、このピーターの法則による組織の無能化から逃れるために、どのような昇進システムが最も効率化ということを、計算機を使ってその動向をモデル化し、様々な昇進ルールを比較しました。

その結果、以下の二つの方法が、組織の効率を最も高くすることが分かりました。
1.最も優秀な者と最も無能な者を交互に昇進させる方法
2.無作為に選ばれた者を昇進させる方法

彼らの研究論文(英語)は、以下にありますので、興味のある方は、お読みください。
The Peter Principle Revisited: A Computational Study

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実際に、毎年、有能な構成員(新入社員)を組織の最下層に投入しても、昇進するに従って、上位階層に行けば行くほど無能になるという現象は、古い官僚組織に良く見られます。

日本で、明治維新が成功したのは、未知の能力の若者が、封建制度という古い官僚システムを破壊して、ランダムな昇進を果たしたという側面も大きいと思います。

現代の社会にランダムな昇進を適用することは、難しいと思いますが、意外に有効な方法かもしれません。