エストレラ氏 イールドカーブは、リセッションを示唆していない

ブルームバーグのキャロリン・ボーム氏が、7月に、イールドカーブ理論のアーテュロ・エストレラ氏にインタビューした記事を見つけました。


●引用開始

7月14日(ブルームバーグ):米連邦準備制度理事会FRB)は長期債の買い入れを増やすことで、金利を低下させ、住宅価格を手ごろな水準に引き下げる可能性がある-。こんなささやき声が聞かれるようになった。それとも単なる希望的観測なのだろうか。

30年物住宅ローン金利は4.6%と、既に過去最低水準にあるが、政府の住宅減税措置が4月に打ち切られたとたんに住宅需要は地に落ちた。

もし長期金利を低下させて長短金利の格差を圧縮することが景気の刺激につながると考える人がいるとしたら、考え直すことをお勧めする。急こう配のイールドカーブ(長短金利差が大幅な状態)こそ、現在の景気を最も力強く支えている要因だからだ。

もちろん2つの金利を結んだだけの線に特別な力があるわけではない。それでもイールドカーブは恐らく、景気サイクルの最良の先行指標なのだ。

FRBイールドカーブを操作する必要なはい。短期金利をゼロに保つことは、それに伴うリスクはもちろんある。それでもFRBはそうすることでリセッション(景気後退)の再来を全力で阻止しているのだ。

なぜそう言えるのか。レンセラー工学大学(ニューヨーク州)の経済学教授アーテュロ・エストレラ氏は、名目のイールドカーブについて、短期金利がゼロの場合、リセッションの先行指標となる「逆イールド」(短期金利長期金利を上回る状態)になることは決してないと指摘する。

過去のケース

では、名目長期金利がゼロを下回ることがないというだけで、米国がリセッションに陥ることはないと言い切れるのだろうか?

エストレラ氏によると、1967年以降の計7回のリセッションでは、それに先立ち必ずイールドカーブが逆イールドとなった。逆イールドの出現からリセッション入りまでに要した期間は3-18カ月。直近の例では2006年7月に逆イールドが出現。景気サイクルの公式判定機関である全米経済研究所(NBER)によると、リセッション入りしたのは07年12月だった。

平時なら、300ベーシスポイント(bp、1bp=0.01%)に達している現在の長短金利差は、かなり景気刺激的といえる。銀行はほぼコストゼロで資金を借り入れ、米国債を購入し、金利差を利益として享受できる。信用リスクはまったくない。純利益の増加に直結するため、資本構成が改善し、銀行は融資に前向きになる。

銀行批判は的外れ

ただ現在は平時ではない。銀行は貸し出しができないか、または消極的だ。恐らく商業用不動産ローンの損失見込みが足かせとなっているのだろう。融資需要も引き続き弱い。FRBによると、商業銀行の融資・リース額は1年4カ月連続で減少。銀行の米国債保有が着実に増えたのとは対照的だ。

民間セクターへの貸し出しをせずに、収益性の高い「カーブトレード」に力を注いでいると銀行を批判するのは的外れだ。経済がリセッションに陥ればFRB短期金利を引き下げ、イールドカーブの傾斜がきつくなる。民間セクターの融資需要は弱いが、政府の需要は強い。銀行は喜んで政府に融資する。このお金がマネーサプライを拡大し、短期的に需要を刺激する。

このように、現在のサイクルは1990年のリセッション後の状況に似てきている。当時、銀行は商業用不動産の損失を抱えており、バランスシートを拡大することができなかった。

足元がふらつく景気回復を心配するならば、FRBにできる最善策は政策金利をゼロに維持することだ。景気を動かそうという時、短期金利はより強力な手段だ。

景気減速はイエス。リセッションはノー。これがイールドカーブからのメッセージだ。過去の的中率は申し分ない。エコノミストも、計量経済学モデルも、そしてイールドカーブが発するメッセージを受け入れるのに抵抗があるように見えるFRBイールドカーブにはかなわない。

二番底のリスクを訴える皆さん、ゆっくりとした景気回復を楽しもうではありませんか。(キャロリン・ボーム)

●引用終了

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スプレッド(長短金利差)は、銀行の利益の源泉であり、非常に重要な指標です。

イールドカーブ理論に従えば、スプレッドが3%近くある現状で、一年以内に景気後退に陥る可能性は、ゼロなのですが、世間的には、そうでは無いようです。

一年後には、結果が分かりますが、その時には、地味なイールドカーブ理論の示唆を誰も覚えていないでしょう。