検証システム 第24回 1966年の特殊事情(ベトナム戦争)

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前回は、1960年代以降の米国債の逆イールドを求めて、その景気後退の先行指標としての有効性を検証しました。
その際に、次の二点が懸案となっていました。

1.1966年11月から1967年3月にかけて、逆イールドを検知したが、その後、景気後退には至らなかった。(1967年の景気後退の誤検知)
2.1990年7月から始まった景気後退の前に、逆イールドが発生しなかった。(1990年の景気後退の検出漏れ)

以下は、その懸案事項に対する考察です。

1.1967年の景気後退の誤検知

上のグラフは、米国の住宅投資の1959年からの推移です。(GDPに対する住宅投資の比率で表しています。)
青い線が全体の住宅投資で、赤い線が一戸建て住宅の分です。
拡大図は、以下のリンクから開けます。
Residential Investment Stalled

住宅投資は、逆イールドと同様に景気後退の重要な先行指標です。
グラフを見てみると、1966年当時の住宅投資が大きく下落しており、景気後退入りを強く示唆していることが分かります。

このように、イールドカーブだけでは無く、住宅投資などの複数の指標が、1966年当時、米国が景気後退に入る直前であることを示唆していました。

しかし、実際に、景気後退入りしなかった理由について、Calculated Risk氏は以下のように述べています。
Some readers will notice the sharp decline in 1966 and wonder why the economy didn't slide into a recession - the answer is the rapid build-up for the Vietnam war kept the economy out of recession (not the best antidote).

すなわち、当時のベトナム戦争の急速な拡大によって、大規模な需要が追加されたために、景気後退入りが回避された、という訳です。

ベトナム(Wikipedia)の年表によると、1964年~1967年の状況は以下のとおりです。
# 1964 年:南ベトナムでグエン・カーン将軍によるクーデター(1月)、トンキン湾事件(8月 2日)
# 1965 年:アメリカ軍による北爆開始(2月 7日)、アメリ海兵隊がダナンに上陸(3月)、韓国軍派遣(10月)
# 1966 年:北ベトナムに対するB-52による初空襲(4月)、初のクリスマス休戦(12月)
# 1967 年:南ベトナム解放民族戦線がダナン基地を攻撃(7月)、グエン・バン・チューが南ベトナム大統領に就任(9月)

1966年11月には、既に北爆が開始されており、もし、戦争の拡大で追加される軍需を想定すれば、逆イールドが検出されても、これを、ノイズと見なして、景気後退を誤って予想する事態を回避できた、と言えます。

2.1990年の景気後退の検出漏れ

前回に作成したイールドカーブでは、1990年の景気後退入りの前に逆イールドを検出できませんでした。
しかし、第20回 移動平均金利による逆イールドの抽出では、1989年8月9日~1989年10月18日の通算49日間で、逆イールドが検知されています。

これは、3ヶ月債の金利に、既発債の金利、または、変動利付き債の金利のどちらを適用するかの違いによります。

通常、変動利付き債の金利の方が、既発債の金利よりも、1%~4%程度、大きくなるので、逆イールドが出現し易すくなります。

1982年以降、変動利付き債の3ヶ月債の金利が公表されており、今回の場合も、この金利を適用することによって、1990年の景気後退の検出漏れを回避出来たと言えます。

以上の事を勘案して、再度、移動平均金利の逆イールドによる景気後退の予測について、まとめると以下のとおりです。

移動平均金利の逆イールドによる景気後退の予測】

景気後退を予測して的中する確率:100%
景気後退を見逃す確率:0%
平均先行期間(既発債):5.8ヶ月
平均先行期間(変動利付き債):10.7ヶ月  

●前提条件
1.3ヶ月債の金利として、1954年~1981年は、流通市場の既発債の金利を適用し、1982年以降は、変動利付き債の金利を適用する。
2.10年債は、全ての期間で、変動利付き債の金利を適用する。
3.金利は、90日移動平均を計算して、イールドカーブを求める。
4.戦争による軍需の拡大などで、大規模な需要追加が確実に予想される場合は、逆イールドが検出されても、これをノイズと見なす。

次回は、株式の売却タイミングとして、移動平均金利による逆イールドが有効かどうかを検討します。