商品循環 第65回 金本位制の問題点と商品循環の関係

【直近の履歴】
第64回 1861年から1925年の金価格と金融政策の関係
第63回 19世紀後半の大不況を米国経済史から考察する
第62回 1860年から1920年の商品の実質価格を求める

前回までの分析結果により、1860年代から1920年代にかけて、米国では、金本位制が維持され、不況期においても、金融が引き締められていた為に、長期の資産デフレが発生し、1890年前後の商品循環のピークも観測されなかったということが分かりました。

今回は、通貨体制としての金本位制の問題点を整理して、商品循環との関係を考えてみようと思います。

1.管理通貨制度と金本位制の違い

【管理通貨制度とは】
現在の通貨体制である管理通貨制度では、中央銀行は、金の保有量と関係無く、通貨を発行することが可能で、中央銀行が通貨と金を交換することは、ありません。・・・不兌換通貨

金本位制とは】
かつての通貨体制であった金本位制とは、中央銀行が発行する通貨に対して、一定のレートで保有している金との交換を保証する体制です。・・・兌換通貨

2.不況期の対応

【管理通貨制度の場合】
経済が不況に陥った場合、現在の管理通貨制度では、中央銀行が、金利を引き下げて、金融緩和を行い、企業や個人の金利負担を軽減し、さらに、借り入れを容易にして、景気を刺激します。

不兌換通貨であるため、中央銀行は、保有している金の量に制約されることなく、タイムリーかつ理論上、無制限に、通貨の供給量を増やす事が可能です。

また、現在の変動為替制では、利下げによって、通貨の相対的価値が減ると、為替が自国通貨安に誘導されるため、貿易の交易条件が改善し、輸出が増えることになります。

金本位制の場合】
金本位制の場合、不況に陥った場合でも、中央銀行は、金の保有量の制限があるために、金融緩和を行って、無制限に通貨供給量を増やすことができません。

金と通貨の交換レートを切り上げて、相対的な通貨の価値を下げようとしても、新札への切り替えに、手間とコストがかかるために、タイムリーな金融緩和は、難しいと考えられます。

さらに、不況によって、輸出が減少して、貿易赤字となった場合、通貨すなわち金が国外に流出してしまうために、通貨流通量が自動的に減少して、金融が引締められます。

不況期に、金融が引き締められると、さらに、景気が悪化し、デフレが進行し、貿易赤字が拡大するという、デフレスパイラルに陥ります。

貿易収支の均衡は、デフレと景気悪化が進行して、輸出の競争力が回復し、輸入が減少し、貿易収支が黒字化するまで続きます。

このように、金本位制では、長期間のデフレと景気悪化が続きます。

3.景気過熱時の対応

【管理通貨制度の場合】
景気が過熱した場合、現在の管理通貨制度では、中央銀行が、金利を引き上げて、金融引き締めを行うことにより、景気の過熱にブレーキをかけます。

やはり、不兌換通貨であり、通貨と金がリンクしていないため、中央銀行は、タイムリーに通貨の供給量を減らす事が可能です。

また、現在の変動為替制では、利上げによって、通貨の相対的価値が高まると、為替が自国通貨高に誘導されるため、貿易の交易条件が悪化し、輸出が抑制されることになります。

金本位制の場合】
金本位制の場合、景気が過熱した場合でも、中央銀行は、容易には、金融を引き締めて、通貨供給量を減らすことができません。

さらに、景気の過熱で、輸出が増加して、貿易黒字となった場合、海外から通貨すなわち金が国内に流入してしまうために、通貨流通量が自動的に増加して、金融が緩和されます。

好況期に、金融が緩和されると、さらに、景気が過熱し、インフレが高進し、貿易黒字が拡大するという、インフレのスパイラルに陥ります。

貿易収支の均衡は、インフレと景気過熱が進行して、輸出の競争力が低下し、輸入が増加し、貿易収支が赤字化するまで続きます。

このように、金本位制では、激しいインフレと景気過熱が長期間続くことになります。

4.金本位制の問題点

上のように、金本位制による事実上の固定相場制では、「インフレと景気過熱、もしくは、デフレと景気悪化」という痛みを必ず伴う、と言う点が、管理通貨制との違いであり、最大の問題点と言えます。

5.1860年代から1920年代の検証

金本位制の問題は、1860年代から1920年代にかけて、データ的にも、典型的に表れてきます。

下は、1861年から1925年までの金価格の推移です。
1861年から1918年まで、金とドルとの交換レートは、ほぼ、固定化され、金本位制のもとでの固定相場制が敷かれていたと考えられます。

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下は、同じ期間の銅鉱石の産出価格の推移です。
1860年代後半から1890年代後半の約30年間にわたって、価格が4分の1になる激しいデフレが続き、その後、1916年から1917年に価格が二倍になる急激なインフレがあったことが分かります。
金本位制の典型的な問題点が見て取れます。
また、米国における1870年前後から1890年代後半までの大不況の原因として、金本位制があったことが推察されます。

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以下は、1913年から現在までの、CPI(季節調整前)の前年同月比の推移です。
金本位制を敷いていた1920年前後のインフレとデフレが、その後と比べて、非常に激しいものだったことが分かります。
現在の管理通貨制に移行した1971年以降のインフレとデフレは、それ以前に比べると、マイルドであることも分かります。

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6.まとめ

このように、金本位制で固定相場が敷かれていた場合、デフレが長期化し、長期金利の底においても、金融緩和が行われず、その結果、商品循環のピークも観測されないと考えられます。

次回は、1920年代から1970年代にかけての、通貨体制を振り返り、1947年の商品循環のピークが発生した理由を、考えてみようと思います。

7.補記

米国が金本位制を長期間に渡って維持した理由は、1861年に流通させ始めたドルの地位を高めるためでした。
当時、新興国だった米国では、広くドルを普及させ、安心して利用してもらうために、ドルと金の交換を可能にして、交換レートも一定に維持する必要があったといえます。